本記事は、公的機関および学術論文により報告されている情報を整理したものです。特定の疾患の診断や治療を目的とするものではありません。血便や急激な体重減少など、重篤な症状がある場合は必ず医療機関にご相談ください。
「数日間便が出ないと思ったら、急に激しい下痢に見舞われる」「ガスでお腹がパンパンに張って苦しい」。
こうした症状は、単なる体質ではなく過敏性腸症候群(IBS)混合型IBS-M (Mixed)。硬便(便秘)と軟便(下痢)の両方が、それぞれ排便回数の25%以上を占める病態。である可能性があります。
実は最新の調査で、この「混合型」が日本人のIBSの中で最も多いタイプであることが分かってきました。今回は、なぜ腸がこのような「極端な挙動」を繰り返すのか、その背景にある粘膜トラブルと小麦(グルテン)の関係について、信頼できるデータをもとに解説します。
1. 日本人に急増する「混合型」の実態
実は「日本で最も多い」タイプ
一般的に「男性は下痢型、女性は便秘型」というイメージがありますが、近年の大規模な疫学調査がその定説を覆しています。
日中韓の3カ国を対象としたメタ解析データによると、日本におけるIBSの有病率は約15%と高く、その中で最も比率が高いのが「混合型(IBS-M)」であり、全体の約31.4%を占めることが報告されています。[1]出典:Clinical Epidemiology (Oka et al.)
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診断のポイント
国際的な診断基準である「Rome IV基準」では、以下の条件を満たすものが混合型と定義されます。[2]出典:国立病院機構 久里浜医療センター
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- 排便の25%以上が、硬い便(コロコロ便など)
- かつ、排便の25%以上が、軟らかい便(水様便など)
つまり、腸の状態が一定せず、両極端な状態を行き来することが最大の特徴です。
2. 「詰まってから溢れる」メカニズム
なぜ、便秘と下痢という正反対の症状が交互に起こるのでしょうか? 医学的には「痙攣(けいれん)性便秘」と「溢流(いつりゅう)性下痢」という概念で説明されます。
フェーズ1:停滞(便秘)
腸の一部が過剰に収縮(痙攣)し、便の通り道を塞いでしまいます。便がそこに留まることで水分が吸収され続け、硬いコロコロとした便になります。この「便の栓」がガスをせき止め、苦しい腹部膨満感(ガス溜まり)を引き起こします。[3]出典:日本消化器病学会 (JSGE)
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フェーズ2:排出(下痢)
便の停滞が限界に達すると、腸は異常事態を察知して防御反応を起こします。
硬い便塊の隙間から、分泌された水分や液状化した後続の便が漏れ出す現象です。(中略)ガスによる伸展刺激が閾値を超えると、強力な排便反射が誘発され、溜まっていたものが一気に排出されます。 出典:日本消化器内視鏡学会 [4]出典:一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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この時、腸が激しく動くため、強い腹痛を伴うのが特徴です。
3. 腸を「過敏」にさせるグルテンの刺激
この「過剰な反応」のスイッチを押している要因の一つとして、小麦に含まれるタンパク質「グルテン」が注目されています。アレルギー検査で陰性であっても、腸の粘膜レベルでトラブルが起きている可能性があります。
「腸のバリア」が開いてしまう
小麦に含まれる「グリアジン」という成分が腸に届くと、ゾヌリンZonulin。腸の細胞同士の結合(タイトジャンクション)を調整するタンパク質。過剰になるとバリア機能が緩む。という物質が放出されます。これにより腸の細胞の結合が緩み、バリア機能が低下する「リーキーガット」の状態が引き起こされます。[5]出典:NIH / PMC (Barone et al.)
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炎症と知覚過敏
バリアの隙間から異物が入り込むと、腸の壁にある免疫細胞(マスト細胞など)が活性化し、微細な炎症を起こします。これが神経を刺激し、少しのガスや便の圧力でも「痛い!」「出さなきゃ!」と過剰に反応してしまう原因となります。
実際、IBSの下痢型・混合型患者において、グルテンを除去することで腸の透過性が改善し、症状が軽減したという臨床データも報告されています。[6]出典:Gastroenterology (Vazquez-Roque et al.)
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4. ゆるやかな実践へのアドバイス
日本の診療ガイドラインでも、食事療法は重要な選択肢の一つです。以下のステップを参考にしてみてください。
- まずは2週間: パン、パスタ、うどんなどの小麦製品を、米中心の食事に切り替えて様子を見ます。[7]出典:Nutrients (Irritable Bowel Syndrome and Gluten-Related Disorders)
ソースを確認する - ガスのケア: 「ガス型」の傾向が強い場合は、小麦だけでなく発酵しやすい糖質(FODMAP)の摂取過多にも注意が必要です。
便秘と下痢の繰り返しは、腸からの「SOS」かもしれません。粘膜への刺激を減らし、腸を休ませることから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献・出典
- [1] Global prevalence and risk factors of irritable bowel syndrome. Clinical Epidemiology, 2023.
- [2] 過敏性腸症候群(IBS) 症例別の取り組み. 国立病院機構 久里浜医療センター.
- [3] Guidelines for Evidence-based Clinical Practice for IBS. 日本消化器病学会 (JSGE), 2020.
- [4] 普通便の後に起こる下痢症状の意味を考える. 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会.
- [5] Gluten-Related Disorders: Effect on Gut Microbiota and Clinical Manifestations. NIH/PMC, 2023.
- [6] Gluten alters bowel barrier functions in patients with IBS-D. Gastroenterology, 2013.
- [7] Irritable Bowel Syndrome and Gluten-Related Disorders. Nutrients, 2020.
