本記事は、公的機関および学術論文により報告されている情報を整理したものです。特定の疾患の診断や治療を目的とするものではありません。意識が飛ぶような眠気や冷や汗などの症状がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。
ランチにパンやうどんを食べた後、意識が遠のくような強烈な眠気に襲われたり、頭に霧がかかったようにぼんやりする(Brain Fog)ことはありませんか?
単なる「食べ過ぎ」で片付けられがちですが、医学的には「血糖値の乱高下」による脳のエネルギー切れと、「小麦由来ペプチド」による鎮静作用という、2つの強力なメカニズムが働いている可能性が示唆されています。
1. 脳がガス欠を起こす「反応性低血糖」
精製された炭水化物(白いパンやうどんなど)を摂取すると、血糖値は急激に上昇します。これに対し、体は血糖値を下げようとしてインスリンを大量に分泌しますが、この反応が行き過ぎてしまうことがあります。
インスリンの「効きすぎ」による急降下
米国国立衛生研究所(NIH)のデータベースによると、食後2〜5時間以内にインスリンの過剰分泌によって血糖値が正常範囲(70 mg/dLなど)を割り込んで急降下する現象を反応性低血糖Reactive Hypoglycemia。食後の高血糖に反応してインスリンが過剰・遅延分泌され、結果として低血糖を引き起こす状態。と定義しています。[1]出典:StatPearls (NCBI)
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ニューログリコペニア(脳内糖欠乏)
脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源としています。血糖値が急激に下がると、脳へのエネルギー供給が途絶え、ニューログリコペニアNeuroglycopenia。中枢神経系の糖欠乏症状。眠気、集中力低下、脱力感、混乱などが生じる。と呼ばれる状態に陥ります。
実際に、日中の過度な眠気を訴える若年男性の症例では、食後の血糖値が急上昇した後に急降下していたことが確認されています。この患者の眠気は、睡眠障害ではなく、血糖変動による脳の機能低下が原因でした。[2]出典:The Japanese Society of Internal Medicine (Internal Medicine)
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2. 脳を麻痺させる「小麦の鎮静作用」
小麦製品特有の問題として、血糖値だけでなく「タンパク質(グルテン)」の作用も無視できません。
脳内麻薬のような「エキソルフィン」
小麦グルテンは消化されにくい構造をしており、分解される過程でグルテンエキソルフィンGluten Exorphin。グルテンの消化過程で生成されるペプチド。オピオイド受容体に結合する作用を持つ。というペプチドが生成されます。
日本薬理学会誌に掲載された研究によると、この物質は脳の「オピオイド受容体(麻薬受容体)」に結合する能力を持っています。動物実験では、鎮痛作用や抗不安作用(リラックスしすぎる状態)が確認されており、これが食後の「抗いがたい気だるさ」や「虚脱感」に繋がっている可能性があります。[3]出典:The Japanese Pharmacological Society (Japanese Journal of Pharmacology)
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3. 高GI食品と睡眠ホルモン
さらに、うどんやパンなどの「高GI食品」は、睡眠ホルモンの材料を脳に送り込む作用も強力です。
セロトニン合成の加速
急激な血糖上昇に伴うインスリンの分泌は、血液中のアミノ酸バランスを変化させ、トリプトファン必須アミノ酸の一種。脳内でセロトニン、さらにメラトニン(睡眠ホルモン)へと変換される。の脳内への流入を促進します。
米国臨床栄養学会誌の研究では、高GI食を摂取したグループは、低GI食のグループに比べて入眠までの時間が有意に短縮された(=早く眠くなった)ことが報告されています。[4]出典:American Society for Nutrition (American Journal of Clinical Nutrition)
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4. 「ゆるやか」な実践へのアドバイス
昼食後のパフォーマンスを維持するためには、以下の対策が科学的に有効と考えられます。
- ベジタブルファースト: 野菜(食物繊維)を先に食べることで、血糖値の急上昇とインスリンの過剰分泌を抑えます。
- 低GI食品への置換え: うどんを「蕎麦」に、白いパンを「全粒粉パン」や「ご飯(玄米など)」に変えることで、血糖スパイクとエキソルフィンの影響を軽減できる可能性があります。
午後の強烈な眠気は、気合いの問題ではなく、体が起こしている「化学反応」の結果かもしれません。
参考文献・出典
- [1] Non-Diabetic Hypoglycemia / Reactive Hypoglycemia. StatPearls (NCBI).
- [2] Excessive Postprandial Sleepiness in Two Young Adults… Internal Medicine (The Japanese Society of Internal Medicine).
- [3] Behavioral and Pharmacological Studies on Gluten Exorphin A5… Japanese Journal of Pharmacology (The Japanese Pharmacological Society).
- [4] High-glycemic-index carbohydrate meals shorten sleep onset. American Journal of Clinical Nutrition.
