本記事は、公的機関および学術論文により報告されている情報を整理したものです。特定の疾患の診断や治療を目的とするものではありません。持続する疲労や体調不良がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。
「十分な睡眠をとっても回復しない」「鉛のように体が重い」「微熱っぽいダルさが続く」。
こうした症状は、これまで一部で「副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)」と呼ばれてきました。しかし、最新の医学研究では、臓器そのものの疲労というよりも、「脳の指令系統のトラブル」や「腸を起点とした慢性的な炎症」が深く関わっている可能性が示唆されています。
本記事では、信頼できる一次情報に基づき、そのメカニズムと背景を客観的に解説します。
1. 「副腎疲労」の医学的実態とHPA軸機能障害
副腎は「疲れて」いない?
一般的に「ストレスで副腎が疲弊し、コルチゾール(抗ストレスホルモン)が出なくなる」とされる副腎疲労ですが、内分泌学の専門機関はこの概念を否定しています。
科学的根拠に乏しく、現在の医学界では受け入れられていません。(中略)副腎は極めて堅牢な臓器であり、慢性的ストレスのみで産生能が枯渇することは稀です。 出典:The Endocrine Society / NIH [1]出典:BMC Endocr Disord (Cadegiani & Kater)
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真の原因は「脳の指令ミス」
現在、医学的に妥当とされているのは、HPA軸機能障害視床下部(Hypothalamus)、下垂体(Pituitary)、副腎(Adrenal)によるホルモン分泌の指令系統のこと。という概念です。 副腎自体が枯渇しているのではなく、慢性的なストレスや炎症によって、脳(視床下部)からの「ホルモンを出せ」という指令がうまく伝わらなくなっている状態を指します。
- 朝起きられない理由: 健康な人は目覚めの直後にコルチゾールが急上昇して活動モードに入ります(コルチゾール覚醒反応Cortisol Awakening Response (CAR)。覚醒直後の30〜45分間にコルチゾール濃度が50〜75%上昇する生理現象。)。しかし、慢性的な炎症がある場合、この反応が消失・平坦化することが報告されています。[2]出典:Psychoneuroendocrinology
ソースを確認する - 効き目が悪くなる: 炎症が続くと、細胞がコルチゾールを受け付けなくなる「抵抗性」が生じ、ホルモンが出ていても効かない状態に陥る可能性があります。[3]出典:Taylor & Francis (Endocrinology)
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2. 「微熱」と「倦怠感」をつくる腸内環境
「常に風邪の引き始めのようなダルさがある」という感覚には、免疫システムが関係しています。その引き金の一つとして研究が進んでいるのが、小麦に含まれる「グルテン」と腸の関係です。
グルテンと「リーキーガット」
最新の研究レビューによると、グルテン(特にグリアジンという成分)は、腸の細胞を開くスイッチであるゾヌリンZonulin。腸上皮細胞の結合を緩める作用を持つタンパク質。過剰になると腸のバリア機能が低下する。の放出を促すことが分かっています。
ゾヌリンは、腸上皮細胞同士を密着させているタイトジャンクションを可逆的に開口させる生理作用を持ちます。(中略)バリア機能の破綻により、通常は排除されるべき毒素が血流中に移行します。 出典:JAMA (The Journal of the American Medical Association) [4]出典:JAMA (Celiac Disease and Nonceliac Gluten Sensitivity)
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脳が感じる「病気の振る舞い」
腸のバリアが緩み、そこから漏れ出した物質(LPSなど)が血流に乗ると、体はそれを「感染」と勘違いして免疫を発動させます。これにより作られた炎症性物質(サイトカイン)が脳に到達すると、以下のような反応を引き起こします。
- シックネス・ビヘイビア(病的行動): 体を休ませるために脳が意図的に引き起こす、活動意欲の低下や強い疲労感。[5]出典:Annals of the New York Academy of Sciences
ソースを確認する - 微熱感: サイトカインが脳の体温調節中枢を刺激し、平熱の設定温度を上げてしまう現象。[6]出典:DiVA portal (Karolinska Institutet)
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つまり、微熱やダルさは「免疫システムが24時間働きっぱなし」であることのサインである可能性が高いのです。
3. 栄養を摂っても吸収されない「炎症ブロック」
「鉄分やビタミンを摂っているのに数値が改善しない」という場合、単なる消化不良ではなく、体が防御反応として「吸収をブロックしている」可能性があります。
鉄分が「封じ込められる」メカニズム
慢性的な炎症(IL-6などの増加)が起きると、肝臓からヘプシジンHepcidin。鉄の代謝を制御するホルモン。炎症時に増加し、鉄の吸収と利用を抑制する。というホルモンが大量に分泌されます。
- 入り口を閉じる: ヘプシジンは腸からの鉄の吸収経路を破壊します。
- 在庫をロックする: 体内にある鉄も細胞内に閉じ込められ、エネルギー産生に使えなくなります。
これは「炎症性貧血」と呼ばれる状態で、鉄不足というよりも「鉄が利用できない」状態です。この場合、鉄剤を摂取しても吸収されず、かえって腸内環境を悪化させるリスクも指摘されています。[7]出典:Frontiers in Physiology
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ビタミンB群と腸内環境
また、グルテン過敏症や腸の炎症を持つ患者では、ビタミンB12や葉酸の吸収低下が報告されています。最新の臨床データでは、グルテンフリー食の導入によって、これらの栄養状態や鉄の利用効率が改善したという報告もあります。[8]出典:Gastroenterology and Hepatology From Bed to Bench
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まとめ:科学的視点からのアプローチ
公的なデータや学術論文は、「副腎疲労」と言われる症状の本質が、以下の3点の複合的なトラブルであることを示唆しています。
- HPA軸の不調: 副腎の枯渇ではなく、脳とホルモンの信号伝達エラー。
- 慢性炎症: グルテン等が引き金となる腸の透過性亢進(リーキーガット)と、それに伴う免疫の暴走。
- 栄養のブロック: 炎症によるヘプシジンの増加が、鉄やビタミンの利用を妨げている。
これらの知見に基づくと、単に栄養を足すだけでなく、「炎症の火元(食事やストレス)をどう管理するか」が、体調回復の鍵となると考えられます。
参考文献・出典
- [1] Cadegiani & Kater. “Adrenal fatigue does not exist: a systematic review”. BMC Endocr Disord, 2016.
- [2] Associations of salivary cortisol levels with inflammatory markers. Psychoneuroendocrinology, 2012.
- [3] Glucocorticoid resistance. Taylor & Francis / Endocrinology Knowledge.
- [4] Fasano A, et al. “Celiac Disease and Nonceliac Gluten Sensitivity”. JAMA, 2017.
- [5] Dantzer R. “Cytokine-induced sickness behavior: mechanisms and implications”. Ann NY Acad Sci.
- [6] The Role of Interleukin-6 in the Febrile Response. DiVA portal.
- [7] Regulation of Erythropoiesis by Hepcidin. Frontiers in Physiology, 2019.
- [8] A gluten-free diet has a different effect on the iron profile… Gastroenterol Hepatol Bed Bench, 2025.
