※免責事項:本記事は個人の体験と、公的機関や学術論文のデータに基づく情報提供を目的としています。病気や検査のリスクには個人差があります。深刻な症状がある場合や具体的な検査の選択については、必ず専門の医師にご相談ください。
私はこれまで、健康診断の胃がん検診といえば「バリウム検査」が当たり前だと思っていました。会社の健診でも、自治体の検診でも、特に疑問を持たずに受けてきた方は多いのではないでしょうか。
しかし、私自身が憩室炎大腸の壁にできた袋状のくぼみに便や細菌が入り込み、炎症を起こす病気を経験したことで、腸の構造や検査のリスクについて初めて深く知ることになりました。
この記事では、私の体験とともに、公的な調査データや最新の研究結果を交えながら客観的な視点で情報を整理して紹介します。
私が経験した「憩室炎」
私が憩室炎を経験したのは数年前のことです。当時は強い便秘が続き、腹部の違和感がありました。
そしてある時、腸の動きがほとんど止まったような状態になり、結果として以下のような治療を受けることになりました。
- 約1週間の絶食
- 点滴治療
- 腸を休ませるための入院
それまで私は「憩室」という言葉すら知りませんでした。
憩室とは何か
憩室とは、大腸の壁の一部が外側に膨らんでできる袋状のくぼみのことです。加齢とともにできやすく、特に大腸の中でもS状結腸などに多いことが示唆されています。
公的な学術調査においても、年齢が上がるほど憩室は増えることが知られています。例えば、日本消化器病学会のガイドラインでは以下のように報告されています。
出典:日本消化器病学会 [1]出典:日本消化器病学会欧米では60歳以上の半数以上が大腸憩室を持つ
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つまり、年齢を重ねると多くの人の腸に「小さなポケット」ができている可能性があると言えます。
憩室炎になるとどうなるのか
この憩室に便や細菌が入り込み炎症が起きると、憩室炎になります。症状は人によって違いますが、主に以下のような症状が起こる可能性があります。
- 腹痛
- 発熱
- 便秘
- 腸の動きの低下
私の場合は腸の動きが極端に弱くなり、結果として絶食治療を余儀なくされました。
医者はバリウム検査を受けない?という話
憩室炎を経験してから腸の病気について調べる中で、「医者はバリウム検査を受けない」という話をよく見かけました。
これは完全に正しいわけではなく、バリウム検査を受ける医療従事者もいます。ただ、直接胃の中を観察でき、小さな病変も確認しやすい胃カメラ(内視鏡)を選ぶ人が多い傾向にあるとも言われています。
海外の研究データを見ると、検査方法の移行が進んでいる国もあります。
出典:韓国国家がん検診研究 [2]出典:韓国国家がん検診研究韓国では、国家胃がん検診の主流がバリウムから内視鏡へ移行しています。
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バリウム検査とはどんな検査?
バリウム検査は、胃のレントゲン検査です。白い造影剤である硫酸バリウムを飲み、胃の形や粘膜の凹凸をX線で撮影します。
日本では1960年代から胃がん検診として導入され、胃がん死亡率の低下に貢献してきた歴史があります。現在の公的な指針でも、以下のようになっています。
出典:国立がん研究センター [3]出典:国立がん研究センター現在でも日本の胃がん検診では、バリウム検査と胃内視鏡検査のどちらも推奨されています。
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日本においてバリウム検診が現在も広く行われている背景
韓国などで内視鏡への移行が進む中、「なぜ日本では依然としてバリウム検査が主流の1つなのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。公的な資料を読み解くと、そこには大きく3つの理由があることが分かります。
1. 胃がん死亡率を減らす「確かな実績」がある
最も大きな理由は、長年にわたる科学的なデータ(エビデンス)です。国立がん研究センターがまとめたガイドラインでは、バリウム検査(胃X線検査)について以下のように評価されています。
出典:国立がん研究センター [4]出典:国立がん研究センター複数の観察研究において死亡率減少効果を示す相応な証拠があり、その結果には一貫性がある。
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「集団全体の胃がんで亡くなる人を減らす」という目的において、明確な実績があることが国として推奨し続けている最大の理由とされています。
2. 一度に多くの人を検査できる「効率の良さ」
バリウム検査は、検診車(バス)にX線装置を積んで職場や地域を回ることができるため、「短時間で・一度に・大量の人数を」検査するのに非常に適しています。対策型検診国や自治体が主導し、集団全体の死亡率を下げることを目的として安価または無料で提供される検診として、コストを抑えながら多くの人に受診機会を提供できるという強力なメリットがあります。
3. 内視鏡医の不足と「検査体制の限界」
「それなら全員、より精密な胃カメラ(内視鏡)にすればいいのでは?」という声もありますが、現実的な課題が立ちはだかっています。厚生労働省の検討会などでも議論されている通り、内視鏡検査を全国規模で実施するには以下のようなハードルが指摘されています。
- 高い技術を持った内視鏡専門医が全国的に不足している
- 見落としを防ぐための「二重読影(複数の医師で画像をチェックする体制)」が十分に確保できない
出典:厚生労働省 [5]出典:厚生労働省胃内視鏡検査は、重篤な偶発症に適切に対応できる体制が整備できないうちは実施すべきでない。
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つまり、日本中の対象者全員が胃カメラを受けようとしても、医療現場のキャパシティが超えてしまうという医療資源の限界が、現在もバリウム検査が重要な役割を担い続けている背景にあると言えます。
バリウム検査のリスク
一方で、医学研究ではいくつかのリスクも報告されています。バリウムは体に吸収されない安全な物質とされていますが、水に溶けない性質があります。
そのため腸に到達すると水分を吸収し、硬い塊になることがあります。これをバリウム糞石(Barolith)腸内でバリウムが水分を吸収して石のように硬く固まった塊と呼びます。[6]出典:硫酸バリウムの腸内挙動に関する研究(PubMed)
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この塊が腸内に残ると、以下のような症状を引き起こす可能性があります。
- 強い便秘
- 腸閉塞
- 憩室炎
- まれに腸穿孔(腸に穴が開くこと)
実際に、日本消化器外科学会の論文でも、バリウム検査後に大腸穿孔が起きた症例が報告されています。[7]出典:日本消化器外科学会
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高齢になるとリスクが高くなる理由
バリウム検査のリスクが注目される理由の一つは、加齢による体の変化です。年齢とともに起こる変化が、リスクを高める要因になることが示唆されています。[8]出典:消化器疾患レビュー(PMC)
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| 加齢による変化 | バリウム検査におけるリスクへの影響 |
|---|---|
| 憩室の増加 | バリウムが入り込みやすいポケットが腸内に増える |
| 腸の動きの低下 | 腸内に残ったバリウムを押し出す力が弱まる |
| 便秘の増加 | バリウムが長時間腸内に留まり、硬くなりやすい |
バリウム検査を控えた方がよい人の特徴
公的な検診ガイドラインや医学的な報告に基づくと、以下のような特徴を持つ方は、バリウム検査によるリスクが高まる可能性が示唆されています。
- 高齢の方:加齢に伴い腸のぜん動運動が低下し、バリウムを排出しにくくなるため。
- 強い便秘の方:普段から排便が困難な場合、腸内でバリウムが水分を奪われて硬くなり、バリウム糞石腸内でバリウムが水分を吸収して石のように硬く固まった塊になるリスクが高まります。
- 消化器疾患の既往歴がある方:腸閉塞や大腸憩室炎大腸の壁にできた袋状のくぼみに便や細菌が入り込み、炎症を起こす病気を経験したことがある方は、検査によって再発や悪化を招く恐れがあります。
- 嚥下(飲み込み)機能が低下している方:誤ってバリウムが気道や肺に入ってしまう(誤嚥)リスクがあるため。
日本消化器がん検診学会が定める安全基準等においても、こうしたリスク要因への注意喚起が行われています。
出典:日本消化器がん検診学会 [9]出典:日本消化器がん検診学会過去に消化管の閉塞や穿孔の既往がある場合、または強い便秘症の受診者については、X線造影検査(バリウム検査)の対象外とするか、慎重な判断が求められます。
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私(葛西)の場合はどうだったのか?
この医学的な基準に照らし合わせると、私(葛西)自身は日常的に「強い便秘」があり、さらに「憩室炎」を経験しているため、明確にバリウム検査のリスクが高いグループに当てはまります。
もし私が過去の自分の体の状態(慢性的な便秘であること)を客観的に把握し、こうした検査のリスク情報を事前に知っていれば、迷わず最初から胃カメラ(内視鏡)を選択していたはずです。自分の体質や病歴を知ることは、安全な検査を選ぶための第一歩だと言えます。
私が感じたこと
私自身、憩室炎になるまで腸の構造や検査のリスクについてほとんど知りませんでした。しかし実際に経験してみると、同じように腸の不調を抱えている人はとても多いと感じています。
健康診断は大切です。ただ、検査の方法にはそれぞれ特徴とリスクがあります。大事なのは、公的なデータや正しい情報を知った上で、自分に合った検査を選ぶことではないかと思います。
結論:バリウム検査は危険なのか?
ここまで読むと「バリウム検査は危険なのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし客観的なデータに基づけば、バリウム検査は胃がん死亡率を下げる効果が確認されている検査でもあります。
そのため現在の医療では、それぞれの健康状態に合わせて「バリウム検査」か「胃カメラ(内視鏡)」のどちらかを選ぶ形が一般的とされています。
参考文献・出典
- 出典元:日本消化器病学会(大腸憩室症ガイドライン・https://karger.com/dig/article/99/Suppl.%201/1/105772/Guidelines-for-Colonic-Diverticular-Bleeding-and)
- 出典元:韓国国家がん検診研究(PMC・https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11967470/)
- 出典元:国立がん研究センター(胃がん検診ガイドライン・https://academic.oup.com/jjco/article/48/7/673/5034861)
- 出典元:国立がん研究センター(有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン・https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/iganguide2014_150421.pdf)
- 出典元:厚生労働省(がん検診のあり方に関する検討会中間報告書・https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/0000098765.pdf)
- 出典元:硫酸バリウムの腸内挙動に関する研究(PubMed・https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28548239/)
- 出典元:日本消化器外科学会(胃透視後の大腸穿孔の症例報告・https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/71/6/71_6_1560/_article/-char/ja/)
- 出典元:消化器疾患レビュー(PMC・https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5265196/)
- 出典元:日本消化器がん検診学会(消化器がん検診の安全性に関するガイドライン等・https://www.jsgcs.or.jp/)


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