食物繊維を摂れば便秘が改善する? 腸が荒れているときは逆効果になることも

この記事は、食物繊維と便秘の関係について、公的機関の指針や査読付き研究などの一次情報をもとに整理することを目的としています。便秘や腹部症状には個人差があり、背景にある病態もさまざまです。慢性的な便秘や腹痛・膨満感が続く場合、また食事内容を大きく変える前には、自己判断に頼らず医師や管理栄養士などの専門家に相談してください。本記事は特定の治療や効果を保証するものではありません。

目次

「食物繊維を摂れば便秘がよくなる」は半分だけ正しい

「便秘には食物繊維」という言葉は広く知られていますが、これは腸が比較的健康で、かつ便秘の病型が合っている場合に限って成り立つ話です。健康な人や、いわゆる弛緩性の便秘では、とくに水溶性でゲルをつくるタイプの食物繊維が便の状態や排便のリズムを整える方向に働くと報告されています。

一方で、過敏性腸症候群(IBS)や活動期の腸の炎症など、腸が知覚過敏になっていたり炎症で傷つきやすくなっていたりする状態では、不溶性食物繊維や発酵しやすい繊維が、かえって腹部の張り・腹痛・下痢を悪化させることがあります。つまり食物繊維は「誰にでも一律に効く便秘対策」ではなく、腸の状態と便秘のタイプによって作用が変わるものとして捉える必要があります。

食物繊維には2つのタイプがあり、腸での働きが違う

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」は、食物繊維を小腸の消化酵素では消化されない難消化性炭水化物として位置づけています[1]出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
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。食物繊維は大きく水溶性と不溶性に分けられ、腸での挙動が異なります。

水溶性食物繊維:水を抱えて便を軟らかくする方向

β-グルカン、イヌリン、ペクチン、psyllium(サイリウム)などの水溶性食物繊維は、保水性と粘性を持ち、腸の内容物をゲル状にして便の中の水分を保ちやすくする性質があります。psylliumは便の水分を保つことで硬い便を軟らかくする方向に働き、難消化性マルトデキストリンは結腸の通過時間・便量・便の状態を改善したと報告されています[6]出典:Ruiz MSA et al., Eur J Nutr, 2016
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。また、イヌリンはヒトを対象とした介入試験で、腸内のBifidobacterium adolescentisの割合を0.89%から3.9%へ高めたと報告され[5]出典:Ramirez-Farias C et al., Br J Nutr, 2009
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、腸内細菌叢を変化させる働きが知られています。

不溶性食物繊維:かさを増やして押し出す方向

セルロースやリグニンなどの不溶性食物繊維は、便のかさを増やして腸の通過を促す方向に働きます。Hillman氏らのクロスオーバー試験では、セルロースの摂取で湿便の重量が約57%増え、平均の通過時間は約27%短くなったと報告されました[4]出典:Hillman LC et al., Br J Nutr, 1983
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。つまり不溶性繊維の主な作用は「便を軟らかくする」よりも「かさを増やして押し出す」側にあると理解しておくとよいでしょう[3]出典:McRorie JW Jr., J Acad Nutr Diet, 2017
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なお、日本人の食物繊維の目標量は18〜64歳で男性21g/日以上・女性18g/日以上とされていますが[1]出典:厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
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、令和6年の国民健康・栄養調査では20歳以上の平均摂取量は18.1g/日(男性19.2・女性17.1)と、全体としては目標を下回っています[2]出典:厚生労働省 令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要
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。多くの人にとって「不足しがち」という事実はある一方で、これがすべての便秘に当てはまるわけではない点が重要です。

IBSや腸の炎症があると、不溶性繊維が逆効果になることがある

IBSで問題になるのは「食物繊維そのもの」ではなく、どの種類の繊維が、どの病態の腸に入るかという組み合わせです。Bijkerk氏らの無作為化比較試験では、IBS患者に対してpsylliumはプラセボより症状がやわらぎやすかった一方、bran(ふすま)は有効性が乏しく、試験から早期に脱落した人がもっとも多かったのもbran群で、その主な理由はIBS症状の悪化でした[9]出典:Bijkerk CJ et al., BMJ, 2009
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。Francis氏とWhorwell氏も、branでIBS症状が全般に悪化し、とくに排便異常・腹部膨満・腹痛が悪化しやすいと報告しています[10]出典:Francis CY, Whorwell PJ, Lancet, 1994
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ふすま(bran)は過敏性腸症候群の症状を全般に悪化させる傾向があり、その見直しが必要である。出典:Francis CY, Whorwell PJ, Lancet, 1994

その背景には、IBSでは大腸や直腸が広がるときの痛みを感じる閾値が、健康な人より低くなっている(知覚過敏)という特徴があります[11]出典:Kanazawa M, J Gastroenterol Hepatol, 2011
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[12]出典:Kanazawa M et al., Am J Gastroenterol, 2008
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。便のかさを増やす不溶性繊維は、知覚過敏になっている腸では腹痛や膨満のきっかけになり得ます。さらに、発酵しやすい高FODMAPの糖質は小腸で吸収されにくく、腸管内の水分を増やしたり発酵によるガスを生んだりすることが報告されています[13]出典:Ong DK et al., J Gastroenterol Hepatol, 2010
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[14]出典:Halmos EP et al., Gastroenterology, 2014
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。日本消化器病学会のIBS診療ガイドラインでも食事療法が推奨され、低FODMAP食が悪化食品を除く例として挙げられています[15]出典:Fukudo S et al., J Gastroenterol, 2021
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「食物繊維=便秘解消」が一人歩きする理由

この認識が広まった背景には、一般の人口では実際に食物繊維が不足しがちで、軽症〜中等症の弛緩性便秘には繊維が有効なことが多い、という事情があります。van der Schoot氏らの2022年のメタ解析では、食物繊維の補充は慢性便秘の改善に有効で、とくにpsyllium、1日10g超、4週間以上の継続が有利だったと報告されています[8]出典:van der Schoot A et al., Am J Clin Nutr, 2022
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。Ashraf氏らも、特発性の便秘でpsylliumが便回数・便重量・便の状態を整えたと報告しています[7]出典:Ashraf W et al., Aliment Pharmacol Ther, 1995
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ただし、便秘には種類があります。便秘を一括りにして「とにかく繊維を足す」と考えると、人によっては症状が悪化します。下の3つの病型の違いを知っておくと、自分の便秘に繊維が合うかどうかを考えやすくなります。

弛緩性便秘:繊維のかさ増しが合いやすいタイプ

腸の動きが弱く通過に時間がかかる、食物繊維不足が背景にあるタイプです。便のかさを増やすことが理にかなっており、不足分を補う方向の食物繊維が役立ちやすいとされます[18]出典:厚生労働省 e-ヘルスネット 食物繊維の働きと1日の摂取量
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痙攣性便秘(IBS型):繊維で悪化しやすいタイプ

腸が緊張・けいれんし、コロコロ便や腹痛・膨満を伴いやすいタイプです。ここではbranのような不溶性繊維が症状悪化の原因になり得ます[10]出典:Francis CY, Whorwell PJ, Lancet, 1994
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。「繊維を増やしたら張りや痛みが強くなった」という経験がある人は、このタイプの可能性を念頭に置くとよいでしょう。

直腸型便秘:繊維だけでは本質が解決しにくいタイプ

排便反射の低下や骨盤底の協調不全などが関わるタイプで、繊維を増やしても根本の問題は残りやすいとされます。実際、食物繊維の効果は主に排便回数の改善に表れやすく、重症の便秘には効きにくい可能性もメタ解析で指摘されています。

腸が荒れているときの優先順位

日本消化器病学会の炎症性腸疾患ガイドラインは、活動期にはまず炎症を速やかに抑える治療を優先するとしています[17]出典:Nakase H et al., J Gastroenterol, 2021
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。慢性便秘症ガイドラインでも、まず別の病気が背景にある二次性の便秘を除外し、便秘の病型を見分けてから治療を始めるべきとされています[16]出典:Ihara E et al., Digestion, 2025
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IBS様の症状が強い時期に相対的に再現性が高い食事アプローチとして報告されているのが、低FODMAP食の短期的な導入です[13]出典:Ong DK et al., J Gastroenterol Hepatol, 2010
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[14]出典:Halmos EP et al., Gastroenterology, 2014
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。ここから導かれる実務的な順序は、次の3ステップです。

  1. まず炎症と刺激を減らす:腸が荒れているときは、繊維を足す前に刺激を引くことが先決です。
  2. 次に病型を見極める:弛緩性・痙攣性(IBS型)・直腸型のどれに近いかを意識します。
  3. 最後に合う種類の繊維を少量から足す:psylliumのような水溶性・ゲル形成性で比較的刺激の少ない繊維を、少しずつ戻していきます。

YGFCの「引き算の健康法」で考える

YGFCが提唱する「引き算の健康法」に沿って考えると、腸が荒れているときに最初に「引く」べきものは、(1) 症状を誘発しやすい高FODMAP食品、(2) 粗くて量の多い不溶性繊維、(3) 一気に増やすサプリメント的な繊維の負荷、の3つです。何かを足して解決しようとする前に、腸を刺激しているものを減らす——これが一次情報ともっとも整合する順序です。

腸が落ち着いてきてから、psylliumのような水溶性・ゲル形成性で比較的低刺激の繊維を、少量から段階的に戻していく。「自分の便秘に食物繊維は合っているのか」を、便秘の病型と腸の状態から考えること自体が、引き算の発想にもとづく便秘との向き合い方だと言えます。

食事内容や食物繊維の摂り方を見直すときは、まず少量から始めて自分の体調の変化を観察し、不安があれば医師や管理栄養士に相談してください。とくに、血便・黒い便、強い腹痛、急な体重減少、発熱を伴う場合や、便秘・下痢・腹痛が長く続く・繰り返す場合は、自己判断で食事だけ調整せず、速やかに医療機関を受診してください。これらは食物繊維の調整で対応すべき範囲を超えている可能性があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。

参考文献

  1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). リンク
  2. 厚生労働省. 令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要. リンク
  3. McRorie JW Jr. Understanding the Physics of Functional Fibers in the Gastrointestinal Tract. J Acad Nutr Diet. 2017. リンク
  4. Hillman LC et al. Differing effects of pectin, cellulose and lignin on stool pH, transit time and weight. Br J Nutr. 1983. リンク
  5. Ramirez-Farias C et al. Effect of inulin on the human gut microbiota: stimulation of Bifidobacterium adolescentis. Br J Nutr. 2009. リンク
  6. Ruiz MSA et al. Digestion-resistant maltodextrin effects on colonic transit time and stool weight. Eur J Nutr. 2016. リンク
  7. Ashraf W et al. Effects of psyllium therapy on stool characteristics, colon transit and anorectal function in chronic idiopathic constipation. Aliment Pharmacol Ther. 1995. リンク
  8. van der Schoot A et al. The Effect of Fiber Supplementation on Chronic Constipation in Adults. Am J Clin Nutr. 2022. リンク
  9. Bijkerk CJ et al. Soluble or insoluble fibre in irritable bowel syndrome in primary care? BMJ. 2009;339:b3154. リンク
  10. Francis CY, Whorwell PJ. Bran and irritable bowel syndrome: time for reappraisal. Lancet. 1994;344(8914):39-40. リンク
  11. Kanazawa M. Visceral hypersensitivity in irritable bowel syndrome. J Gastroenterol Hepatol. 2011. リンク
  12. Kanazawa M et al. Contributions of pain sensitivity and colonic motility to IBS symptom severity. Am J Gastroenterol. 2008. リンク
  13. Ong DK et al. Manipulation of dietary short chain carbohydrates alters the pattern of gas production in IBS. J Gastroenterol Hepatol. 2010. リンク
  14. Halmos EP et al. A diet low in FODMAPs reduces symptoms of irritable bowel syndrome. Gastroenterology. 2014. リンク
  15. Fukudo S et al. Evidence-based clinical practice guidelines for irritable bowel syndrome 2020. J Gastroenterol. 2021. リンク
  16. Ihara E et al. Evidence-Based Clinical Guidelines for Chronic Constipation 2023. Digestion. 2025;106(1):62-89. リンク
  17. Nakase H et al. Evidence-based clinical practice guidelines for inflammatory bowel disease 2020. J Gastroenterol. 2021. リンク
  18. 厚生労働省 e-ヘルスネット. 食物繊維の働きと1日の摂取量. リンク
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葛西 利昭のアバター 葛西 利昭 編集長
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