「サラダ油はヘキサンという溶剤で抽出しているから危険」「あんな油を毎日使っていたら体を壊す」——健康や食を大切にしている方ほど、こうした話を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。台所にある一番身近な油だからこそ、不安になると気になって仕方がなくなりますよね。
ただ、こうした不安の多くは「怖い言葉」だけが先に広まって、実際の製造工程や規制、そして研究データが確認されないまま独り歩きしていることがあります。今回は、国の公定書・国際機関の評価・査読論文といった一次情報をもとに、サラダ油をめぐる主張を一つずつ確かめていきます。結論を先にお伝えすると、「ヘキサン抽出だから危険」という不安は根拠が弱い一方で、サラダ油に注意点がまったくないわけでもない——という、少し歯切れの悪い、けれど誠実な答えになります。
本記事は、公的機関の資料および査読済み研究をもとにした一般的な栄養・食品情報の提供を目的としたものであり、特定の食品を推奨・否定したり、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。脂質異常症・心血管疾患・その他の疾患をお持ちの方、治療中の方、妊娠中・授乳中の方は、油脂の摂り方について自己判断せず、必ず医師・管理栄養士など専門家にご相談ください。
サラダ油はどうやって作られているのか
まず、不安の出発点になっている「作り方」から確認します。ここを知らないまま議論しても、どこに本当のリスクがあるのかは見えてきません。
圧搾とヘキサン抽出、2つの採油法
植物の種子から油を取り出す方法は、大きく分けて2つあります。物理的に圧力をかけて搾る「圧搾法」と、溶剤に油を溶かし出す「抽出法」です。
米国環境保護庁(EPA)は、溶剤抽出の工程を次のように説明しています。対象となる油糧種子は大豆・綿実・カノーラ・コーン胚芽・ヒマワリ・ベニバナ・ピーナッツ・亜麻仁で、種子を粉砕して溶剤と接触させ、油を溶剤に溶かし、油と溶剤を分離したのち加熱して溶剤を蒸発させ、蒸発した溶剤は凝縮して回収・再利用する、という流れです[6]出典:U.S. Environmental Protection Agency
ソースを確認する。つまりヘキサンは「油に混ぜる材料」ではなく、油を運び出したあとに蒸発させて回収される作業用の溶剤という位置づけです。
なぜ「圧搾だけ」にしないのか
「それなら全部圧搾(コールドプレス)にすればいいのでは」と思われるかもしれません。しかしここには、産業としての現実的な制約があります。
製油工程を整理した油化学分野の論文で、Yagi氏(昭和産業)は、植物油の大部分はヘキサン抽出、または圧搾とヘキサン抽出の組み合わせによって採油されていると述べています[7]出典:Takashi Yagi(Showa Sangyo Co., Ltd.)/ J-STAGE
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完全圧搾法や超臨界CO2抽出は小規模生産では実用化されているが、大豆・菜種などの一般油脂の大量生産では収率・コスト面の課題がある。出典:Takashi Yagi「Development Trend of Extraction Process and Degumming Process for Vegetable Oil Production」
圧搾だけでは種子に油がかなり残ってしまい、大量生産では歩留まりとコストが見合わない。だから「圧搾で搾れる分は搾り、残りを溶剤で回収する」という組み合わせが主流になっている、というわけです。ヘキサン抽出はコストを削るための手抜きというより、大量供給を成立させるための工業的な選択だと理解したほうが実態に近いといえます。
「ヘキサン抽出=危険」という不安を検証する
では本題です。工程の中でヘキサンが使われているとして、それは私たちが口にする油にどれくらい残り、どのように管理されているのでしょうか。
日本の規制は「使う目的」と「最終製品前の除去」で管理している
日本では、ヘキサンは食品添加物公定書の使用基準で管理されています。厚生労働省の第10版食品添加物公定書によれば、ヘキサンは「食用油脂製造の際の油脂を抽出する目的」以外には使用できず、さらに使用したヘキサンは最終食品の完成前に除去しなければならないと定められています[1]出典:厚生労働省 第10版食品添加物公定書
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ここで押さえておきたいのは、この規定が「○○ppm以下ならOK」という数値基準(MRL)ではなく、用途の限定と、最終食品前の除去義務という形で組み立てられている点です。数値基準がないことを「野放しだ」と受け取る向きもありますが、規制の考え方としてはむしろ逆で、「残っていてよい量」を認めるのではなく「最終製品になる前に除く」ことを求めている構造です。
この「抽出」という言葉の解釈についても、旧厚生省が行政通知で範囲を示しています。抽出とは原料から油脂を取り出す行為だけでなく、特定の油脂を取り出す「溶剤分別」も含まれると解釈され、脱酸パーム油の分別にヘキサンを用いる場合も、最終製品からヘキサンが除去されていれば使用基準違反にはあたらないとされています[2]出典:厚生省環境衛生局食品化学課長「ヘキサンの使用上の解釈について」
ソースを確認する。どの場面でも判断の軸が「最終製品に残さないこと」に置かれていることが分かります。
国際機関の評価と、そこに残る留保
国際的な評価はどうでしょうか。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、ヘキサン類を抽出溶剤として扱い、その一日摂取許容量(ADI)を「LIMITED BY GMP」と評価しています[3]出典:JECFA(FAO/WHO)HEXANES
ソースを確認する。これは「数値の上限を設ける代わりに、適正製造規範(GMP)の範囲内で管理する」という評価区分です。
ただし、ここで話を「だから完全に安全」と締めてしまうのは誠実ではありません。JECFAは2005年に、商業用ヘキサンの組成は地域・原料・製造地によって変わるため、過去の評価の対象と現在流通しているものが同一とは限らず、再評価が必要であるとコメントしています[3]出典:JECFA(FAO/WHO)HEXANES
ソースを確認する。つまり現時点の評価は「管理下にあり、通常の残留リスクは低いと考えられる」ものであって、「評価データの新しさや射程に一切の課題がない」という意味ではないのです。
この「商業用ヘキサンは単一物質ではない」という点は、JECFAの毒性モノグラフでも具体的に示されています。商業用のヘキサンはn-ヘキサンだけでなく、2-メチルペンタンや3-メチルペンタンなどを含む炭化水素の混合物です[4]出典:JECFA / WHO, IPCS INCHEM「508. Light petroleum (WHO Food Additives Series 16)」
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実際の残留量はどの程度か
気になるのは「で、実際どれくらい残っているのか」という点でしょう。同じJECFAのモノグラフには、抽出油やケーキ(搾りかす)中の残留溶剤は数ppm程度であるとのデータ例が示されており、具体例としてココアバター中の残留が0.3 ppmと記載されています[4]出典:JECFA / WHO, IPCS INCHEM「508. Light petroleum (WHO Food Additives Series 16)」
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ただしこの0.3 ppmという数字は、サラダ油そのものを測定した値ではなく、ココアバターという別の食品での一例です。「サラダ油の残留量は0.3 ppmだ」と読み替えることはできません。あくまで溶剤抽出食品における残留量のオーダー感を示す参考データとして受け取るのが適切です。それでも、「危険なレベルの溶剤がなみなみと残っている」というイメージとは、桁が大きく異なることは分かります。
米国での位置づけ
米国では、ヘキサン(CAS 110-54-3)はFDAの食品添加物データベース上「SOLVENT OR VEHICLE(溶剤またはビヒクル)」として登録され、21 CFR 173.270などに紐づけられています。この条項では、香辛料オレオレジン中の残留を25 ppm以下、ホップ抽出物中の残留を2.2重量%以下と規定していますが、食用植物油一般の残留上限をこの条項が直接定めているわけではありません[5]出典:U.S. FDA / eCFR「21 CFR 173.270 — Hexane」
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また米国では、ヘキサンは食品側だけでなく大気汚染側からも規制されています。EPAはn-ヘキサンを植物油溶剤抽出工程の主要な有害大気汚染物質(HAP)と位置づけ、排出基準の対象としています[6]出典:U.S. Environmental Protection Agency
ソースを確認する。これは工場周辺の大気環境の話であり、食べる側の残留リスクとは論点が異なります。ネット上ではこの2つが混ざって「EPAが危険物質に指定している=油が危険」と語られることがありますが、規制の目的が違うことは分けて理解しておきたいところです。
ここまでをまとめると、「ヘキサン抽出だからサラダ油は危険」という主張は、日本の使用基準・除去義務、国際機関の評価、実測データのいずれから見ても、そのままでは支持しにくいといえます。一方で、JECFAが再評価の必要性に言及している点も含め、「完全に議論が終わった話」と断言するのも行きすぎです。
見落とされがちな2つの論点 ─ トランス脂肪酸とn-6脂肪酸
ヘキサンの話ばかりが盛り上がる一方で、サラダ油について冷静に見ておくべき論点は、実は別のところにあります。精製工程で生じるトランス脂肪酸と、脂肪酸バランス(n-6偏重)の2つです。
精製工程由来のトランス脂肪酸
トランス脂肪酸というと「マーガリンやショートニングの話」と思われがちですが、厚生労働省のQ&Aは、トランス脂肪酸が部分水素添加油脂の製造時だけでなく、植物油を高温で脱臭する工程でも生じると説明しています[10]出典:厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」
ソースを確認する。サラダ油は精製・脱臭を経て作られるため、微量のトランス脂肪酸を含みうるということです。
実際の測定データもあります。飯田氏らが国内市販植物油24銘柄をガスクロマトグラフィーで測定した2024年の研究では、トランス脂肪酸含有量は平均1.32 g/100 g、総脂肪酸比1.43%でした。高値の1銘柄を除くと平均0.92%となり、家庭用マーガリン0.88%、ファットスプレッド0.90%とほぼ同程度だったと報告されています。主成分はリノール酸・α-リノレン酸の部分トランス異性体でした[8]出典:飯田泰浩ほか(日本食品油脂検査協会)「最近の国内市販植物油に含まれるトランス脂肪酸組成の調査」
ソースを確認する。「植物油はマーガリンより安心」と単純には言いにくい、という点は押さえておきたい事実です。
一方、竹内氏らが2025年に報告した研究では、植物油脂32サンプル・マーガリン類28サンプルの測定で、植物油脂の平均トランス脂肪酸量は0.41 g/100 g、マーガリン類は0.43 g/100 gでした。植物油脂では二価不飽和脂肪酸の割合が13%未満のときに低トランス傾向が示されています[9]出典:竹内弘幸ほか(富山短期大学)「植物油脂及びマーガリン類中に含まれるトランス脂肪酸量と脂肪酸組成との関連」
ソースを確認する。研究によって数値には幅がありますが、いずれも「植物油とマーガリン類が同程度のオーダー」という点では一致しています。
では、それは日本人にとってどれくらい問題なのでしょうか。ここで摂取量の話が効いてきます。
厚生労働省によれば、日本人の平均トランス脂肪酸摂取量は総エネルギーの0.3%で、摂取上位5%でも男性0.70%、女性0.75%と、WHOの目標である1%未満を下回っています。1%はおおむね1日約2 gに相当します[10]出典:厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」
ソースを確認する。食品安全委員会の食品健康影響評価[11]出典:食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価について」
ソースを確認するも、日本の平均摂取量0.3%に対し米国は2.2%であることを示したうえで、次のように評価しています。
大多数の日本国民はWHOの目標を下回っており、通常の食生活における健康への影響は小さい。ただし、脂質に偏った食事をしている人では留意が必要である。出典:食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価について」
一方、世界的にはWHOがトランス脂肪酸の高摂取について強い警告を出しています。WHOのファクトシートは、トランス脂肪酸の高摂取が全死亡34%増、冠動脈疾患死亡28%増、冠動脈疾患21%増と関連すると説明し、工業由来トランス脂肪酸は健康的な食事に不要であり回避すべきとしています[12]出典:World Health Organization「Trans fat」
ソースを確認する。また2023年のガイドラインでは、2歳以上について脂肪の「質」を重視し、飽和脂肪酸は総エネルギーの10%以下、トランス脂肪酸は1%以下を推奨しています[13]出典:World Health Organization「Saturated fatty acid and trans-fatty acid intake for adults and children: WHO guideline」
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ここで注意したいのは、WHOが示す「34%増」という数字は、工業由来トランス脂肪酸を多く摂取する集団全般についての国際的な懸念であり、「日本人が日常的にサラダ油を使うとその危険が生じる」という意味ではないということです。日本の平均摂取量はWHOの懸念水準を大きく下回っています。数字だけを切り出して不安を煽る使い方は、この2つの文脈を混同したものです。
したがって現実的な注意点は、「サラダ油そのもの」よりも、揚げ物・スナック・菓子・加工食品を通じて脂質全体に偏った食生活になっていないかという点に置くのが妥当だといえます。
n-6脂肪酸(リノール酸)は本当に悪者なのか
もう一つ、健康情報でよく見かけるのが「サラダ油はn-6(オメガ6)に偏っているから炎症を起こす」という主張です。ここは、エビデンスが本当に割れている領域なので、丁寧に見ていきます。
まず成分の事実から。文部科学省の食品成分データベース(日本食品標準成分表八訂 増補2023年)によると、調合油の脂質1 g当たりの脂肪酸は、n-6系多価不飽和341 mg、n-3系多価不飽和68 mg(リノール酸341 mg、α-リノレン酸68 mg)で、n-6/n-3比は概算で約5.0となります[18]出典:文部科学省 食品成分データベース「油脂類/植物油脂類/調合油」
ソースを確認する。サラダ油・調合油の主要な多価不飽和脂肪酸がリノール酸であることは、確かにその通りです。
問題は、それが「健康に悪い」と言えるのかどうかです。
炎症について:Johnson氏とFritsche氏が2012年に発表したシステマティックレビューは、15件のランダム化比較試験(並行群間8件、クロスオーバー7件)を対象に、リノール酸摂取の増加が炎症マーカーに与える影響を検討しました。CRP、フィブリノゲン、PAI-1、サイトカイン、接着分子、TNF-αなどで有意な増加はほぼ認められず、健康な成人においてリノール酸の追加が炎症マーカーを高めるという証拠は乏しいと結論づけています[14]出典:Guy H. Johnson, Kevin Fritsche「Effect of dietary linoleic acid on markers of inflammation in healthy persons: a systematic review of randomized controlled trials」
ソースを確認する。「n-6=炎症」という語りは、少なくとも健康な人のRCTデータでは支持されていません。
心疾患について(保護的な方向):Farvid氏らが2014年に報告したメタ解析は、13件の前向きコホート研究(対象310,602人、冠動脈疾患イベント12,479件、冠動脈疾患死亡5,882件)を統合したものです。リノール酸摂取が最も多い群は最も少ない群に比べ、冠動脈疾患イベントの相対リスクが0.85(95%CI 0.78-0.92)、冠動脈疾患死亡が0.79(0.71-0.89)と、いずれも低い値を示しました。飽和脂肪酸をエネルギー比5%分リノール酸に置き換えた場合の推定も、イベント0.91、死亡0.87と保護的な方向でした[15]出典:Maryam S. Farvidほか「Dietary linoleic acid and risk of coronary heart disease: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies」
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ところが、逆の結果を示す研究もあります:Ramsden氏らが2013年にBMJで発表した解析は、1960〜70年代に行われたSydney Diet Heart Studyの復元データを再評価したものです。冠動脈イベント後の男性458人を対象に、飽和脂肪をサフラワー油由来のリノール酸に置き換えた介入群では、全死亡が17.6%対11.8%(対照群)、ハザード比1.62、心血管死亡HR 1.70、冠動脈疾患死亡HR 1.74と、いずれも介入群のほうが高い結果でした[16]出典:Christopher E. Ramsdenほか「Use of dietary linoleic acid for secondary prevention of coronary heart disease and death」
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この研究は、二次予防(すでに心疾患を起こした人)の集団を対象とし、当時の食事条件・油の種類のもとで行われたものであり、健康な一般集団にそのまま当てはめられる結果ではありません。しかし、「リノール酸を増やすことが常に有益とは限らない」ことを示す重要な反証データであることも確かです。
つまり現時点でのn-6についての誠実な要約は、「n-6は炎症を起こす悪者」でも「n-6はいくら摂ってもよい善玉」でもなく、対象集団や置き換える相手によって結果が分かれる、判断の割れているテーマということになります。どちらか一方の研究だけを引いて断定する語りは、賛成側・反対側のどちらであっても、都合のよい切り取りです。
「n-6/n-3比」という考え方の位置づけ
健康メディアでは「n-6とn-3の比率を4対1に」といった目標がよく語られます。ただし、日本の公的基準はこの形をとっていません。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、n-6系脂肪酸の目安量が18〜29歳で男性12 g/日・女性9 g/日、30〜49歳で男性11 g/日・女性9 g/日、50〜64歳で男性11 g/日・女性9 g/日、n-3系脂肪酸が18〜49歳で男性2.2 g/日・女性1.7 g/日、50〜64歳で男性2.3 g/日・女性1.9 g/日と定められています。いずれも「比率」ではなく、それぞれの脂肪酸群の絶対量(目安量)として管理されている点が重要です[17]出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
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ですから実務的には、「n-6を減らして比率を下げる」よりも、n-3(魚・えごま油・亜麻仁油など)が目安量に届いているかを確認するほうが、公的基準の考え方には沿っています。なお、日本人の脂質・脂肪酸の摂取量が戦後どう変化してきたかは、国民健康・栄養調査のデータから確認できます。エネルギー、脂質、動物性脂質、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸などの推移が昭和21年以降にわたって公開されており、自分の世代の食生活を長期の文脈に置いて考える材料になります[19]出典:国立健康・栄養研究所/厚生労働省「栄養素等摂取量 / 国民健康・栄養調査」
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結局どう付き合えばいいのか
ここまで確認してきたことを、いったん整理します。
- ヘキサンは日本では「油脂を抽出する目的」に限って使用が認められ、最終食品の完成前に除去することが義務づけられている[1]出典:厚生労働省 第10版食品添加物公定書
ソースを確認する。 - 国際的にもGMPの枠内で管理する評価であり、実測データも数ppmのオーダー。ただしJECFAは商業用ヘキサンの組成差から再評価の必要性にも言及している[3]出典:JECFA(FAO/WHO)HEXANES
ソースを確認する。 - 精製油には微量のトランス脂肪酸が含まれるが、日本人の平均摂取量はWHOの目標水準を下回っている[11]出典:食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価について」
ソースを確認する。 - n-6(リノール酸)の健康影響はエビデンスが割れており、単純な善悪では語れない[15]出典:Maryam S. Farvidほか(2014)
ソースを確認する[16]出典:Christopher E. Ramsdenほか(2013)
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「危険だから避ける」ではなく「量とバランス」で考える
ゆるやかグルテンフリー倶楽部では、「体に悪いものを恐れて全部やめる」のではなく、負担になっているものを少し引くという考え方を大切にしています。サラダ油の話も、まさにこの引き算の視点が向いているテーマです。
「ヘキサンが怖いから圧搾油に全部替えなければ」と気負う必要はありません。一方で、「規制されているのだから何も気にしなくていい」というのも、少し雑な結論です。現実的に見直す価値があるのは、油そのものの是非ではなく、次のようなポイントです。
- 揚げ物・スナック・菓子・加工食品の頻度——トランス脂肪酸も脂質過多も、ここで積み上がります。脂質に偏った食事では留意が必要、というのが食品安全委員会の評価でした[11]出典:食品安全委員会
ソースを確認する。 - 魚を食べる頻度(n-3が足りているか)——比率を気にするより、n-3の目安量に届いているかを見るほうが公的基準の考え方に沿っています[17]出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
ソースを確認する。 - 油の使い方の総量——どの油に替えても、使う量が多ければ脂質摂取は増えます。銘柄の入れ替えより、量の見直しのほうが効きます。
- 油の使い分け——加熱調理は手に入りやすい油で、仕上げの香りづけにはえごま油や亜麻仁油を、といった使い分けは、n-3を増やす無理のない方法です(これらの油は加熱に弱いため、非加熱で使います)。
不安を煽る情報は、行動を変えるきっかけになる一方で、「あれもこれも危険」と選択肢を狭め、食卓を息苦しくしてしまうことがあります。今回のテーマでいえば、ヘキサンへの恐怖を、そのままn-6への恐怖に置き換えてしまうのが最もありがちな落とし穴です。片方の警告を降ろした瞬間にもう片方の警告を立ち上げても、不安の総量は変わりません。
油は、毎日少しずつ使うものだからこそ、極端な判断より、続けられる選び方のほうが結果的に効いてきます。
本記事でお伝えしたかったのは、特定の油を「危険」あるいは「安全」と一律に決めつけることではなく、量とバランスという視点で捉えることの大切さです。食品の健康影響は、単一の成分ではなく食生活全体の中で評価されるものであり、本記事の内容も一般的な情報提供の範囲にとどまります。脂質異常症・心血管疾患などの疾患をお持ちの方、治療中・服薬中の方、妊娠中・授乳中の方、また特定の食事療法を受けている方は、脂質の摂り方について必ず主治医・管理栄養士の指導に従ってください。体調に不安を感じる場合は、自己判断で食生活を大きく変える前に医療機関にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「第10版食品添加物公定書 F 使用基準」2024年. https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001208485.pdf
- 厚生省環境衛生局食品化学課長「ヘキサンの使用上の解釈について(昭和51年9月10日 環食化第110号の2)」1976年. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0578&dataType=1&pageNo=1
- JECFA(FAO/WHO)「HEXANES – Evaluations of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives」1970年(2005年再言及). https://apps.who.int/food-additives-contaminants-jecfa-database/Home/Chemical/414
- JECFA / WHO, IPCS INCHEM「508. Light petroleum (WHO Food Additives Series 16)」1981年. https://www.inchem.org/documents/jecfa/jecmono/v16je14.htm
- U.S. FDA / eCFR「21 CFR 173.270 — Hexane / Substances Added to Food: HEXANE」eCFR 2026年7月時点. https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-B/part-173/subpart-C/section-173.270
- U.S. Environmental Protection Agency「Solvent Extraction for Vegetable Oil Production: National Emission Standards for Hazardous Air Pollutants」2026年更新. https://www.epa.gov/stationary-sources-air-pollution/solvent-extraction-vegetable-oil-production-national-emission
- Takashi Yagi(Showa Sangyo Co., Ltd.)「Development Trend of Extraction Process and Degumming Process for Vegetable Oil Production」J-STAGE, 2006年. https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/6/3/6_133/_article
- 飯田泰浩ほか(日本食品油脂検査協会)「最近の国内市販植物油に含まれるトランス脂肪酸組成の調査」分析化学, 2024年. https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/73/1.2/73_45/_article/-char/ja/
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- 厚生労働省「食事による栄養摂取量の基準(日本人の食事摂取基準 2025年版)」2024年告示・2025年版適用. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab4652
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- 国立健康・栄養研究所/厚生労働省「栄養素等摂取量 / 国民健康・栄養調査」1946年以降データ(2026年時点公開). https://www.nibn.go.jp/eiken/kenkounippon21/eiyouchousa/koumoku_eiyou_chousa.html
