この記事は「発酵食品は腸に良い」という一般論が、すべての人・すべての腸の状態に当てはまるわけではない、という観点を一次情報をもとに整理することを目的としています。健康・栄養に関する一般的な情報であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。すでに腸の不調・基礎疾患がある方、症状が続く方は、自己判断で食事を変える前に医師・管理栄養士など医療専門職にご相談ください。
「発酵食品は腸に良い」が成り立つのはどんなときか
ヨーグルト、納豆、キムチ、みそ。発酵食品は「腸活」の代表格として語られます。しかしこの一般論が成り立つのは、腸の粘膜が保たれ、腸内の生態系が安定している人に限られる場面がある、というのが近年の研究が示す慎重な見方です。
健康な腸では、発酵食品由来の菌は一定程度生き残って腸管を通過します。健康な志願者を対象とした試験では、ヨーグルト摂取後の便から Streptococcus thermophilus と Lactobacillus delbrueckii が検出され、相当量のヨーグルト菌が消化管の通過に耐えると報告されました[1]出典:Mater DDG et al.
ソースを確認する。
ただし「通過すること」と「腸に定着して効くこと」は別の話です。Cell誌に掲載された研究で、Zmora氏らは、経験的に投与したプロバイオティクスに対して、腸の粘膜に定着が起こる人と起こらない人が分かれ、その差が宿主側の特徴ともともとの腸内細菌叢の特徴で生じることを示しました[2]出典:Zmora N et al. Cell. 2018
ソースを確認する。同じグループの別の報告では、抗菌薬の使用後にプロバイオティクスを与えた群は、自分の便を戻す自己便移植群と比べて、本来の粘膜マイクロバイオームの再構成がかえって遅れたとされています[3]出典:Suez J et al. Cell. 2018
ソースを確認する。つまり「足せば整う」という単純な図式は、必ずしも万人に当てはまりません。
炎症のある腸では話が変わる
腸に炎症があるときは、さらに事情が異なります。活動性の潰瘍性大腸炎(UC)では、日本発のランダム化比較試験でビフィズス菌発酵乳が寛解の誘導を後押ししたという報告[4]出典:Kato K et al. Aliment Pharmacol Ther. 2004
ソースを確認するや、Bifidobacterium longum BB536 に関する報告[5]出典:Tamaki H et al. Dig Endosc. 2016
ソースを確認するがある一方で、Escherichia coli Nissle の追加投与には利益が認められなかったとする二重盲検試験もあります[6]出典:Petersen AM et al. J Crohns Colitis. 2014
ソースを確認する。
クローン病では Lactobacillus GG に利益を示せなかった試験があり[7]出典:Schultz M et al. BMC Gastroenterol. 2004
ソースを確認する、Cochrane のシステマティックレビューも、有効性・安全性について確かな結論には至っていないとしています[8]出典:Limketkai BN et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020
ソースを確認する。菌を入れることが、効くとは限らないのです。
さらに見過ごせないのが安全性の問題です。重症の活動性UCの患者で、プロバイオティクスの使用に関連した Lactobacillus rhamnosus GG による菌血症の症例が報告されています。この症例を報告した Meini氏らの記録は、腸の粘膜障害が強い状態で菌を取り込むことのリスクを具体的に示しています[9]出典:Meini S et al. Infection. 2015
ソースを確認する。
発酵食品が逆効果になりやすい状態
発酵食品は「菌」だけでなく、菌のエサになる発酵性の基質や、乳糖・塩分・食物繊維といった成分も一緒に体へ入れます。文部科学省の食品成分データベース[15]出典:文部科学省 食品成分データベース
ソースを確認するを参照すると、日本の代表的な発酵食品には次のような特徴があります。
- ヨーグルト:乳糖 2.9〜4.4 g/100 g。乳糖不耐や小腸内細菌増殖症(SIBO)がある人では負担になりやすい。
- 納豆:食物繊維 9.5 g/100 g。発酵性の基質・繊維負荷が高く、ガスや張りにつながりやすい。
- キムチ:炭水化物 5.4 g・食物繊維 2.2 g・ナトリウム 1100 mg/100 g。さらに刺激の強い調味が加わる。
- みそ:食塩相当量 12.4〜13.0 g/100 g。塩分や具材の影響が支配的になりやすい。
とりわけSIBOでは問題が鮮明です。米国の国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)は、SIBOを「小腸内の細菌数の増加または細菌種の変化により余分なガスが作られ、下痢や体重減少を起こしうる状態」と説明しています。健康な19人に Bifidobacterium infantis 35624 を2週間投与した試験では、メタンが有意に上昇し、呼気試験で異常を示す人が増えたと報告されました[10]出典:Kumar K et al. Dig Dis Sci. 2018
ソースを確認する。
Rao氏らは、ガス・膨満・頭がぼんやりする感覚(brain fogginess)を訴える30例でSIBOとD-乳酸に関連した所見を確認し、プロバイオティクスの中止と抗菌薬による治療の後に症状が和らいだと報告しています[11]出典:Rao SSC et al. Clin Transl Gastroenterol. 2018
ソースを確認する。良かれと思って続けた発酵食品やプロバイオティクスが、症状の引き金になっている可能性があるということです。
プロバイオティクスは、重い病気がある人や免疫の働きが低下している人では、重篤な有害作用のリスクが高くなる可能性がある。出典:厚生労働省 eJIM
逆効果になりやすい人のチェックポイント
厚生労働省 eJIM の整理[12]出典:厚生労働省 eJIM 経口プロバイオティクス
ソースを確認するもふまえると、次のようなサインがある人は、発酵食品を「足す」ことに慎重になったほうがよい状態です。
- 発酵食品を食べるたびに、腹部の膨満・げっぷ・放屁がくり返し再現する → SIBOや糖質不耐の可能性。
- ヨーグルトで下痢、納豆・キムチでガス・張り・便秘の悪化が再現する → 乳糖・発酵性炭水化物・メタン優位の発酵の可能性。
- 血便・発熱・体重減少・夜間の症状がある → 活動性のIBD(炎症性腸疾患)の評価を先に行うべきサイン。
- 免疫が低下している・重い炎症がある・中心静脈カテーテルを使っている・腸の粘膜障害が強い → 菌血症のリスクがあるため、自己判断での追加は避ける。
潰瘍性大腸炎・クローン病は、厚生労働省の資料でも「再燃と寛解をくり返し、長期の管理を必要とする炎症性の疾患」と整理されています[13]出典:厚生労働省 097 潰瘍性大腸炎
ソースを確認する[14]出典:厚生労働省 096 クローン病
ソースを確認する。こうした疾患が背景にある場合、まず行うべきは菌を入れることではありません。
腸が荒れているときの優先順位は「引く」こと
腸が荒れている時期に第一に考えたいのは、「善玉菌を入れること」ではなく、炎症・菌の過増殖・食事性のトリガーをまず下げることです。
食事の面では、症状が出ている時期には乳糖が少なく、残渣が少なく、刺激が弱く、十分に加熱された食品が体に受け入れられやすいことが多いとされます。IBS(過敏性腸症候群)に似た症状が前面に出ている場合は、低FODMAP食で症状がやわらぐことが期待できるという報告もあります。ただし米国消化器学会(AGA)の2024年の臨床実践アップデートは、「成人のIBDの再燃率を一貫して下げると言える食事は、まだ確立していない」としています[16]出典:Hashash JG et al. AGA Clinical Practice Update on Diet and Nutritional Therapies in Patients With IBD. Gastroenterology. 2024。
つまり「これさえ食べれば安全」という万人共通の正解はありません。合理的なのは、炎症は治療で下げながら、悪化させる食品を一つずつ外して、自分の体で確かめていくという進め方です。これは、何かを足して効果を期待する前に、まず合わないものを引いていくという考え方そのものです。
YGFC(ゆるやかグルテンフリー倶楽部)が提案している「引き算の健康法」は、まさにこの順序を大切にしています。発酵食品が悪いという話ではありません。腸が落ち着いていない時期には、流行りの「足す健康法」より先に、自分にとっての負担を一つずつ引いていく。その引き算が落ち着いてから、発酵食品との付き合い方を改めて考える——その順番が、自分の腸を守る現実的な道筋になります。
気になる症状がある方は、まず発酵食品やサプリメントを足す前に、自分の体に合わない食品を一つずつ見直すことから始めてみてください。そのうえで、血便・発熱・体重減少・夜間に起きるほどの腹痛・強い膨満や下痢が続く場合は、自己判断で対処せず、できるだけ早く医療機関を受診してください。この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。
- Mater DDG et al. Streptococcus thermophilus and Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus survive gastrointestinal transit of healthy volunteers consuming yogurt. FEMS Microbiol Lett. 2005. https://doi.org/10.1016/j.femsle.2005.07.006
- Zmora N et al. Personalized Gut Mucosal Colonization Resistance to Empiric Probiotics Is Associated with Unique Host and Microbiome Features. Cell. 2018;174(6):1388-1405. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.08.041
- Suez J et al. Post-Antibiotic Gut Mucosal Microbiome Reconstitution Is Impaired by Probiotics and Improved by Autologous FMT. Cell. 2018;174(6):1406-1423. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.08.047
- Kato K et al. Randomized placebo-controlled trial assessing the effect of bifidobacteria-fermented milk on active ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther. 2004;20(10):1133-1141. https://doi.org/10.1111/j.1365-2036.2004.02268.x
- Tamaki H et al. Efficacy of probiotic treatment with Bifidobacterium longum 536 for induction of remission in active ulcerative colitis. Dig Endosc. 2016;28(1):67-74. https://doi.org/10.1111/den.12553
- Petersen AM et al. Ciprofloxacin and probiotic Escherichia coli Nissle add-on treatment in active ulcerative colitis. J Crohns Colitis. 2014. https://doi.org/10.1016/j.crohns.2014.06.001
- Schultz M et al. Lactobacillus GG in inducing and maintaining remission of Crohn’s disease. BMC Gastroenterol. 2004;4:5. https://doi.org/10.1186/1471-230X-4-5
- Limketkai BN et al. Probiotics for induction of remission in Crohn’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020;7:CD006634. https://doi.org/10.1002/14651858.CD006634.pub3
- Meini S et al. Breakthrough Lactobacillus rhamnosus GG bacteremia associated with probiotic use in a patient with severe active ulcerative colitis. Infection. 2015;43:777-781. https://doi.org/10.1007/s15010-015-0798-2
- Kumar K et al. Effect of Bifidobacterium infantis 35624 (Align) on the Lactulose Breath Test for Small Intestinal Bacterial Overgrowth. Dig Dis Sci. 2018;63(4):989-995. https://doi.org/10.1007/s10620-018-4945-3
- Rao SSC et al. Brain fogginess, gas and bloating: a link between SIBO, probiotics and metabolic acidosis. Clin Transl Gastroenterol. 2018;9:162. https://doi.org/10.1038/s41424-018-0030-7
- 厚生労働省 eJIM. 経口プロバイオティクス. https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/07.html
- 厚生労働省. 097 潰瘍性大腸炎. https://www.mhlw.go.jp/content/000696527.pdf
- 厚生労働省. 096 クローン病. https://www.mhlw.go.jp/content/000696526.pdf
- 文部科学省. 食品成分データベース. https://fooddb.mext.go.jp/
- Hashash JG et al. AGA Clinical Practice Update on Diet and Nutritional Therapies in Patients With Inflammatory Bowel Disease. Gastroenterology. 2024.
